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福岡地方裁判所久留米支部 昭和49年(ヨ)74号 判決

債権者兼債権者永井福輔承継人 永井昭四郎

右訴訟代理人弁護士 岩城邦治

債務者 山口正義

右訴訟代理人弁護士 大石幸二

主文

一  債務者は、別紙図面のイロハニイの各点を順次結んだ土地部分に設置したブロック塀を除去し、かつ、債権者が別紙図面のイホヘトイの各点を順次結んだ土地部分を通行することを妨害してはならない。

二  債務者において本命令送達の日から二日内に右ブロック塀を除去しないときは、債権者の委任した執行官は右ブロック塀を除去することができる。

三  訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

主文第一、第二項同旨。

二  申請の趣旨に対する答弁

債権者の仮処分申請を棄却する。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  被保全権利

(一) 別紙図面イホヘトイの各点を順次結んだ土地部分(以下、本件土地という。)は、久留米市西町字北鞍打の三の一、〇一〇番四の土地(以下、本件道路という。)の一部であって、申請外江崎寿雄の所有に属し、地目は畑とされているものの、現実には近隣の人々の利便に供されている。

(二) 債権者の所有する久留米市西町字北鞍打の三の一、〇一〇番五の土地は、隣地である債務者の所有する久留米市西町字北鞍打三の一、〇一〇番三八の土地とともに、本件道路に面しており、本件道路は債権者および債務者が所有する右各土地から公道に出るための通用道路となっている。

(三) 債権者および債務者が所有している右各土地は、いずれも本件道路とともに、申請外江崎寿雄の所有に属していたが、本件道路を除く各土地は、その後申請外岩岡正義に売り渡された。

岩岡は、一、〇一〇番五の土地で旅館を、一、〇一〇番三八の土地で風呂屋を経営していたが、昭和三二年一一月一九日に一、〇一〇番五の土地と地上建物を債権者永井昭四郎の父永井福輔に売り渡し、さらに同年一一月三〇日に一、〇一〇番三八の土地と地上建物を債務者に売り渡した。

(四) 債権者および債務者は、岩岡の営業していた旅館、風呂屋をそれぞれひきついだが、債務者は昭和四四年に「つつじ湯」の屋号で大衆風呂、家族湯およびサウナの備わった風呂屋をはじめ、また、債権者は昭和四五年三月から焼肉店「三江」をはじめるに至った。債権者、債務者はいずれも自動車で来店する客のために各所有地内に駐車場設備を設けているが、本件道路上における双方の客の自動車の進入や駐車問題でしばしば争いが生ずるようになった。

そこで債務者は、本件土地上の別紙図面イロハニイの各地点を順次結んだ各点に、ブロックを積み重ねた塀(以下、本件ブロック塀という。)を作り上げ、さらに本件土地上をコンクリートで打ち固め、たゝきにしてしまった。

(五)(1) その結果、債権者および家族は、本件ブロック塀およびコンクリートたたきと申請外真田、同江崎、同金子などの塀との間のわずか〇・九四メートルほどの隙き間を、側溝をさけながら小さくなって通行し、自動車の出し入れには高度のハンドルテクニックを使わなければならず、本件ブロック塀を通過する際には、本件ブロック塀の突端に乗り上げたり、側溝に車輪を落したりしてタイヤを傷つけている。

(2) 更に、債権者の経営する焼肉店「三江」の営業は、大きな被害を被っている。すなわち、第一に、飲食店にとって大切な入口部分は本件ブロック塀によって隠されてしまい、人通りの多い表通り(県道)からは店の灯は見えない。第二に、債務者が本件ブロック塀に取り付けた「入浴者以外駐車禁止浴場センターつつじ湯」および「私有地つつじ湯」の看板は、「三江」の客に不審感や疑問感を与え、「三江」に対するイメージを大きく傷つけ、更に自動車で来ようとする客の来店を阻んでいる。第三に、現状でも敢えて自動車で来店してくれる馴染客が、本件ブロック塀で車体を傷つけたり、側溝に車輪を落したりの事故が跡をたたない。「三江」の営業が夜間中心であるからなおさらである。第四に、営業用の肉やその他の材料の仕入れのための自動車も同様の事故を起し、営業に支障をきたしている。

(3) 債務者は、本件ブロック塀およびコンクリートたゝきの設置は風呂屋へ来る客の自動車の駐車場を確保するためと称しているが、債務者は別に駐車場設備を有しており、通常予想される客の自動車は収容することが出来るから、新に駐車場を確保しなければならない事情はない。債務者の本来の意図は、本件道路の一部を自己所有地内に取り込むことにある、すなわち、債務者は、昭和四四年、福岡銀行から七〇〇万円の借り入れを行うに際し、債務者の所有する一、〇一〇番三八の土地の担保価値を増して借り入れを有利に進めるため、本件土地の取り込みという点についてはまったく触れないまゝ単なる公簿のみの地積の訂正のような印象を植えつけて隣人の同意をとりつけ、錯誤を理由に右土地の地積訂正の登記を行い、たまたま生じた駐車問題を機に、本件ブロック塀およびコンクリートたゝきを設置することにより、土地の取り込みを一挙に実行に移したものである。

(六) 以上のごとく、債権者は、本件土地を道路の一部として使用してきたものであって、債権者の居宅の使用上或いは債権者の経営する「三江」の営業上、本件土地の使用が必要であるに対し、債務者には本件土地上にブロック塀を設置しなければならない必要性は全く存在しない。したがって、仮に債務者主張のごとく本件土地が債務者所有の一、〇一〇番三八の土地の一部であるとしても、本件土地上に本件ブロック塀を設置し、本件土地の通行を妨害したことは権利の濫用である。

更に、本件が通行妨害という形態(債務者は往来妨害罪で有罪判決をうけている。)であることから、被害発生について債務者の認識の存在は歴然としており、かつ、前記のとおりの方法による地積訂正から本件ブロック塀の設置までの債務者の一連の行為は違法性を有しており、不法行為に該当する。

よって、債権者は債務者に対し、第一次的に権利濫用を理由として、第二次的に不法行為に基き、本件ブロック塀の撤去ならびに本件土地使用に対する妨害行為の禁止を求める。

2  保全の必要性

債務者は、本件ブロック塀設置後にコンクリートたゝきを作るなど、まったく反省の色をみせておらず、かえって本件土地上に自動車を駐車させるなどして通行妨害行為を継続している。

債権者は、本件土地所有者や近隣の住民とともにたびかさなる話し合いを行なったが、債務者はまったく本件ブロック塀の撤去に応じようとしない。往来妨害罪として有罪判決まででているのに本件土地の通行妨害を止めようとしない。

債権者の被っている被害は、すでに耐え難いものになっており、とりわけ焼肉店「三江」の被る損害は莫大なものとなっており、このまゝ本訴において争うのでは回復しがたい損害を生ずることとなるため、とりあえず妨害行為の中止を求めるため本訴に及んだ。

《以下事実省略》

理由

一、債権者所有の久留米市西町字北鞍打の三の一、〇一〇番五の土地と債務者所有の同所一、〇一〇番三八の土地は隣接していて、いずれも本件道路に面していること、本件道路は債権者の右土地より公道に出るための通用路となっていること、右各土地は、本件道路とともに、もと、申請外江崎寿雄の所有に属していたが、本件道路を除く各土地は、その後、申請外岩岡正義に売り渡されたこと、岩岡は、一、〇一〇番五の土地で旅館を、一、〇一〇番三八の土地で風呂屋を経営していたが、昭和三二年一一月一九日に一、〇一〇番五の土地と地上建物を債権者永井昭四郎の父永井福輔に売り渡し、さらに同年一一月三〇日に一、〇一〇番三八の土地と地上建物を債務者に売り渡したこと、債権者および債務者は、それぞれ岩岡の営業していた旅館、風呂屋をひきついだが、債務者は昭和四四年に「つつじ湯」の屋号で大衆風呂、家族湯およびサウナの備わった風呂屋をはじめ、また、債権者は昭和四五年三月から焼肉店「三江」をはじめるに至ったこと、債権者、債務者はいずれも自動車で来店する客のために各所有地内に駐車場設備を設けているが、本件道路上における双方の客の自動車の進入や駐車問題でしばしば争いが生ずるようになったこと、そこで債務者は、本件土地上の別紙図面イロハニイの各点を順次結んだ土地部分にブロックを積み重ねた塀を作り上げ、さらに本件土地上をコンクリートで打ち固めてたゝきにしてしまったことは当事者間に争いがない。

本件土地のうち、別紙図面ロホヘチロの各点を順次結んだ土地部分は、本件道路の一部として近隣の人々の利便に供されていることは、債務者が自ら認めているところであり、《証拠省略》を総合すれば、本件道路は、大正一〇年頃江崎寿雄の父江崎秀徹が大衆浴場「つつじ湯」を建てた際に同人が開設したものであり、右浴場の建物は、本件道路と平行ではなく、やゝ斜めに建っており、建物の向って右側が本件道路に接し、左側が本件道路から約二メートル位奥まっており、その空地に縁台などが置かれていたこと、右「つつじ湯」ができて間もなく、本件道路をへだてて浴場前に真田宅が建てられ、本件道路沿いに次々と住宅が建てられていったこと、昭和二七年頃岩岡が「つつじ湯」を譲り受け、浴場の付属建物であったところに旅館「つつじ屋」を建て、前に練瓦塀を構築し、当時は「つつじ屋」の前付近では、本件道路との区別が判然としていたこと、右練瓦塀跡が現在「三江」駐車場入口に残っており、その本件道路に対する位置は、債権者、債務者所有地の間の境界として、従来からあったブロック塀と本件ブロック塀(従来からあったブロック塀の延長上に設置されている。)との継目のところにあたること、県道からの本件道路の入口付近は、岩岡が「つつじ湯」を買受けた頃は約二メートルの道路幅員であったが、その後本件道路と県道との角にあった「飯田」宅(「つつじ湯」側)の垣根、植木がとり除かれ、建物の下屋が切りとられてだんだんと広くなり、岩岡が一、〇一〇番五、一、〇一〇番三八の土地を債権者、債務者に売却した昭和三二年頃には出入口付近は、すでに三メートル以上の道路幅員となっていたこと、真田宅は旧来のままであり、現在右練瓦塀跡と真田宅との道路幅員は約三・七メートルあること、昭和四四年頃債務者の営業する「つつじ湯」が改築され、本件道路とほぼ平行になったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の諸事実によれば、本件土地のうち、イロチトイの各点を順次結んだ土地部分は、本件道路の一部として近隣の人々の利便に供されていたと認めるのが相当である。なお債務者は、右土地部分は、「つつじ湯」改築前から占有していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠もない。

二、そこで、仮に本件土地が債務者主張のとおり、債務者にその所有権が認められるとして、債務者の本件ブロック塀の設置が権利の濫用にあたるかにつき判断する。

《証拠省略》を総合すれば、債権者が居住し、かつ、焼肉店「三江」を営業している一、〇一〇番五の土地は、西鉄花畑駅から南東に約一〇〇メートル、県道七五三号線から北東約三〇メートル余りの地点にあたり、場所柄「三江」の客は自動車客が多いこと、本件ブロック塀を設置するまでは同所における本件道路の幅員は約三・七五メートルであったのに、本件ブロック塀によって通行可能な道路部分は約二・一五メートルとなり、そのうち約一・〇五メートルの部分は右コンクリート舗装となっていて未舗装部分より約二〇センチメートル高くなっていること、しかも同所においては本件ブロック塀の南東に接して一段のブロックが設置されていること、本件ブロック塀と反対側の道路端には約一九・五センチ幅の側溝があること、しかも、「三江」の駐車場入口は、債務者と接する側にあり、その間口は、普通乗用車一台が通れる程度のものであることが認められ、債権者、「三江」の自動車客、自動車での仕入れ関係者は、駐車場への出入りのたびごとに困難な状況となり、本件ブロック塀を通過する際には、本件ブロック塀の突端にあるブロックに乗り上げたり、側溝に車輪を落したりの事故がしばしばおこっていることが認められる。

《証拠省略》によれば、債務者の営業する「つつじ湯」は、客の多い午後九時ないし一〇時頃で自動車客は五ないし六台程度であって、債務者の有する専用駐車場には四台程度は駐車可能であることが認められるから、本件土地上に更に駐車場をつくらなければならない必要性は乏しいといわなければならない。

以上の事実を勘案すれば、本件ブロック塀の設置は、債権者の不利益が大であるのに対し、債務者のうける利益は小さく、権利濫用の行為といわざるを得ない。

したがって、債務者は、本件ブロック塀を撤去し、債権者が本件土地を通行することを妨害してはならない。

三、《証拠省略》によれば、債権者の営業する「三江」は、自動車客の減少をきたし、もしこのままの状態が長引くときは、債権者の営業にとって回復することのできない損害を被るに至ることは明白である。

弁論の全趣旨によれば、本件ブロック塀のうち道路中央寄りの二枚分(約八〇センチメートル)は昭和五二年六月頃これを取り除かれ、その分だけ道路が広くなったことが認められるが、右程度によっては、前記債権者の不利益が除去されたとは認められない。

そうであってみれば、本件仮処分申請は、その疎明があるものとして、これを認容すべきものと考える。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村道代)

〈以下省略〉

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